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先物取引によるビットコイン価格への影響

ビットコインの価格は2009 年の取引開始から2017年半ばまで4,000ドルを上回ることはなかった。その後の2017年の後半に20,000ドル付近まで急激に値上がりしたが、12月半ばから急落に転じた。価格がピークに達した時期は、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)でビットコインの先物取引が開始された時期と一致している。この急上昇と先物取引が開始された後の下落が偶発的な値動きであるとは思えない。この値動きはむしろ、先物市場への資産の導入に伴う典型的な取引手口によるものである。

ビットコインは「暗号通貨」、つまり本源的価値を有する有形/無形の資産によって裏付けられることのないデジタル通貨である。図1に示すように、ビットコインのドル価は2009年1月の取引開始から2017年2月22日まで1,150ドルに到達することはなかったものの、その後の約10カ月間で飛躍的な上昇を遂げている。この爆発的な成長は、ビットコインがピーク値の19,511ドルに到達した2017年12月17日をもって終わりを告げた。注目すべきは、これらの値動きは、S&P 500種株価指数との比較からもわかるように、市場全体における変動に起因するものではないということである。

ビットコイン価格は、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)でビットコインの先物取引が開始されたその日に最高値に到達している。本書では、Fostel and Geanakoplos (2012)のモデルが示しているように、これらの値動きと、2000年代の住宅金融市場における価格の上昇および暴落との同調における根拠を考察する。彼らのモデルは、楽観的な投資家の注目を集めた保証金の流動化とグループ化による金融革新が不動産投資ブームに油を注いだことを示唆している。その後の破綻は、悲観的な投資家が住宅市場の下降に賭けることを可能にする金融商品が創出されたことによって発生したものである。ブロックチェーン技術の到来によってビットコインという新たな金融商品が導入され、ビットコイン先物取引の開始により悲観論者による市場参加が促進されるまで、楽観的な投資家がその値を引き上げてビットコイン価格の反騰に寄与したのも、同様の仕組みによるものである。

ビットコインについて

大文字のBから始まる「Bitcoin」は、銀行やクレジットカード会社ではなくピアツーピアシステムによって小文字のbから始まる「bitcoin」と呼ばれるデジタル通貨による取引を検証する分散型ネットワークを意味する。最初のビットコイン が「採掘」されたのは、サトシ・ナカモトという名の匿名の人物または集団が、信頼できる第三者ではなく暗号法を用いるという、この通貨における概念実証(PoC)を公開した後の2009 年に遡る(Nakamoto 2008)。ビットコインの基盤であり台帳でもあるブロックチェーンは、当事者間の安全な取引を提供するプラットフォームを実現する(Chiu and Koeppl 2017、Berentsen and Schar 2018)。

ビットコインのマイナーは、計算資源によるビットコイン取引の検証とブロックチェーンの維持に貢献する。彼らは自身の計算資源を新たに採掘されたビットコインと共有することにより報酬を得る。採掘可能なビットコインの総数は恣意的に2,100万枚に設定されており、この量に到達したら(その時期は2140年であると推定されている)、マイナーは新たなビットコインによってではなく取引手数料によって利益を得るようになる(Nian and Chuen 2016)。

2017 年終わりから 2018年初めにかけてのビットコインの値動き

ビットコインのような通貨や資産の価値について検討する際には、物品・サービスの購入といった取引にビットコインを使用する時に生じる取引需要と、人々が値上がりを期してビットコインを購入する時に生じる投機的需要に分けて考察するのが望ましい。投資家が求めているのは資産自体ではないため、投機的需要は基本的に原資産/通貨の値上がりに賭けることによって生じる。投資家は、ほとんどの通貨や資産において、それらから派生した様々な金融商品や通貨(いわゆるブ金融デリバティブ)を用い、複数の方法を駆使して、その値上がりか値下がりのいずれかに賭ける。

ビットコインのデリバティブ市場が存在しなかった2017年12月までは、ビットコインの値下がりに賭けることは不可能ではないにしても極めて困難であった。そのような賭けは通常、資産を買う前に売る空売り、先渡し/先物契約、スワップ、あるいはこれらの組み合わせによって行われる。他方、ビットコインの値上がりに賭けることは、ただ買えばいいだけなので簡単である。ビットコインの投機的需要は、楽観論者、つまり値上がりを期待して金銭を投じることを厭わない投資家によるものであり、これらの投資家の判断は12月17日までは正しかった。自己充足的予言のように、楽観論者による需要がビットコイン価格を押し上げ、多くの人々の参加を促したことにより、その価格は上昇し続けた。しかし悲観論者がビットコイン価格は暴落するという自己の信念に逆らって金銭を投じることを可能にするメカニズムは存在しなかった。よってこれらの悲観論者は「だから言わんこっちゃない」と胸を張って言える瞬間が来るのを待つしかなかった。

この一方的な投機的需要の高まりは、12月17日にCMEでビットコインの先物取引が開始された途端に終わりを告げた。その1週間前の12月10日にシカゴ・オプション取引所(CBOE)が先物取引をすでに開始していたにもかかわらず、CMEがこのデリバティブ市場に参加するまでは薄商いが続いた。実際、CMEが先物取引を開始してから1カ月後の時点における1日平均取引量は、CBOEのみがこの派生金融商品を取り扱っていた時の約6倍に上っていた。

ビットコインの先物が導入されたことにより、悲観論者はビットコインの値下がりに賭け、スポット価格よりも低い先物価格で売買契約を結ぶことができるようになった。例えば値下がり予測に基づいて、1カ月後に売却するという約束で現在のスポット価格よりも安値でビットコインを購入し、その価格が1カ月後の実際の提供価格を下回っていた場合に利益を得ることができる。先物取引によりスポット価格よりも安値でビットコインが提供されるようになると、必然的にスポット価格を押し下げるオーダーフローが形成される。これは、取引または投機のためにビットコインを購入し、1カ月待つことを厭わない市場内の全投資家にとって悪くない状況である。この新たな投資機会によってスポット市場におけるビットコインの需要が低下し、その結果、価格が下落する。価格が下落すると、悲観論者は投資利益を得ることができ、空売りによる値下がりがさらに促進される。

図2は2017年にビットコイン価格の急落が発生した主な日付(6/6、9/1、12/17)の前後における値動きを示している。これらの3つのピークイベント発生日におけるピーク値が100となるように、値動きの尺度を調整した。よって図上の各ポイントは、ピーク値を100とした場合の割合(%)を示しており、横軸はピーク日の前後の日数を表している。CME におけるビットコインの先物の導入に続くビットコイン価格の値下がり(赤線)の幅は、過去2回のリバーサル(反騰)の幅を明らかに上回っている。また、過去2回の値下がりは約1カ月で暴落前のレベルに立ち直っているが、先物導入後の暴落は4月の終わり時点ではまだそれ以前のピーク値に戻っていない。

新たな金融商品の導入後に市場が反転したのはこれが初めてではない。Fostel and Geanakoplos (2012)が示しているように、住宅ローンに後押しされたより複雑な証券市場における反転も同じ仕組みによって発生したものであり、楽観的なトレーダーと悲観的なトレーダーが市場にもたらす推進力に基づくものである。

それではなぜ、ビットコイン価格は一夜にして暴落するのではなく、徐々に下落しているのだろうか。その答えを見つけ出すのは容易ではない。悲観的な投資家には、取引の初日または初週に市場に参加する意欲や能力、あるいは集中力が欠けていることが原因かもしれない。この主張が正しいことを裏付けるように、初週の契約における1日当たりの平均取引高が12,000ビットコインになるという約束で開始されたCMEでの先物取引における当初の総取引高は、スポット市場における推定取引高である200,000ビットコインと比較して遥かに低いものであった。

ビットコインに基本価格は存在するのか

では、ビットコインの価格はどちらに向かうのだろうか。 その答えを出すのは非常に難しく、我々はここでビットコインの価格が予測できるようなふりをしたり、何らかの推測を提供したりするつもりはない。その代わりに、ビットコインの基本価格に影響を及ぼしうる主な要因をいくつか挙げ、それに基づいて、長期的な視点から、楽観論者と悲観論者における投機的需要が均等となった時の値動きを予測することはできるだろう。

ビットコインの供給量は、現時点における流通量と、採掘によって追加される量に基づいて決定される。採掘される量は、そのコストと利益に基づいて決定される。Hayes (2015)は2015年におけるビットコインのマイニングコストを、当時の時価に近い約250ドルと見積もっている。しかしマイニングコストがビットコインの価値に及ぼす影響は、一般的に紙幣の印刷コストがその価値に及ぼす影響(基本的に皆無)を上回るものであってはならない。

ビットコイン価格を支える実価資産が存在しないこと、ビットコインが他資産の価値の急激な変動に対する保険として、ナチュラルヘッジとはならないことを踏まえると、最終的に「基本的な」ビットコイン価格を決定するものは、供給量と取引需要の比率である。ビットコインが取引の手段として多くの市場で使用されていることは把握している。取引需要は、これらの市場が機能するために必要なビットコインの量によって構成される。マイニングコストが上昇すればビットコインの供給量が抑えられ、取引需要の急増に供給が追い付かない場合には価格が上昇することは予想に難くない。

取引需要は多数の要因に左右される。その1つは代用品のアベイラビリティーである。現在ビットコインに支配されている市場において、別の暗号通貨が取引の手段として幅広く使用されるようになれば、ビットコインの需要は瞬く間に減少するだろう。なぜならこの市場は、勝者によって独占される傾向があるからだ。また、従来から存在する金融機関で、担保、支払いの手段、あるいは直接投資の対象としてビットコインの受け入れが進めば、その需要は大幅に増えるだろう。さらに、支払いの手段としてビットコインが公認され、規制当局に受け入れられれば、流通が促進されることが予想される一方、規制による制約や取引手数料の導入により流通量が低下する可能性もある。

結論

ビットコインの急速な値上がりとCMEで先物取引が開始された後に発生した下落は、金融理論や過去に観察された取引手口によって示唆されている値動きと一致するものである。つまり楽観論者によって引き上げられた市価がデリバティブの導入によって下落している(Fostel and Geanakoplos 2012)。デリバティブ市場が十分な厚みを帯びると、悲観論者からの空売り圧力によって急激な値下がりが発生する。我々はビットコインの長期的な価格変動を決定づける複数の要因を把握してはいるものの、ビットコイン取引によって生じる利益に関する理解があまりにも正確性を欠いているため、これらの価格を定量化することができるまでに至っていない。しかしビットコイン市場から投機的な値動きがなくなれば、取引によって生じる利益を評価における判断材料とすることができるかもしれない。

 

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